一朝入魂(316)

大城勝太

2012年02月16日 02:17

その分厚さから普段はなかなか手を伸ばすことのない文藝春秋。

しかし、芥川賞作品が掲載される号は別だ。


ところで、今回の芥川賞「もし断ったって聞いて、気の小さい
選考委員が倒れたりなんかしたら都政が混乱しますんで、都知事
閣下と都民各位のために、もらっといてやる」というセンセーシ
ョナルな発言で物議を醸した田中慎弥さんに比べて、同時に受賞
した円城塔(えんじょうとう)さんのことが報じられることは少ない。

確か田中さんは、4歳で父親を亡くし、今も母親と2人で暮らし。
アルバイトも含め一度も職に就いたことがなく、20歳のころから
小説を書き続けているというが…円城さんはどんな生い立ちなのか。
気になって調べてみた。

実は円城さんは物理学を専攻し、
東大大学院を卒業した「博士」なんだそうだ。


ただ博士号は持ってはいても、安定した職がないいわゆる「ポスドク」
で健康保険料も払いかねるくらい苦しい生活だったという。

その極貧生活のたしになれば・・・と思い小説を書き始めた
というから人生どこで才能が開花するかわからないものである。


文部科学省によると現在、かつての円城さんのようなポスドクが
1万5000人いるという。考えてみれば私の友人もこの春、ポスドク
というポジションに耐えかねて、大学を去る。そして私も広い意味で
ポスドクを恐れて大学時代の研究をあきらめた一人である。

40歳を過ぎて初めて就職。長くポスドク時代をすごした指導教官の
境遇を受け入れる覚悟が私にはできなかった。

大学への研究予算の削減でポスドクは増える一方だという。
学びたいという意欲と学んだ知識が仕事になる仕組み。安心して研究
できる環境を早急に生み出せなければ、若い人の研究職への就業意欲
や意識がそがれてしまう。ひいてはそれが国力の低下を招く由々しき
問題である。

そんなことを考えていると・・・分厚い文藝春秋のページが・・・
なかなか進まない。

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